有識者によるお役立ちコラム
PROFILE
株式会社SHARE 地域共創部 部長/公益社団法人北海道理学療法士会 理事
渡邊 匠(理学療法士)
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略歴
2014年に理学療法士免許を取得。道内の病院で、急性期〜生活期などのリハビリテーションに従事した後、株式会社SHAREへ入社。現在は、医療機関と連携した運動支援、障がいのある方の自立・社会参加支援、自治体の介護予防事業などに携わり、医療・介護・障がい福祉・フィットネスをつなぐ、行動に繋がる地域の健康づくりに取り組んでいる。
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現在の専門分野
地域理学療法/健康増進/運動療法/介護予防/社会参加支援/施策の企画・実装
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主な実践領域
指定運動療法施設における医療連携と運動療法/障がい福祉領域における自立訓練と社会参加支援/自治体の介護予防・健康増進事業の企画・実装/デジタルデータと地域活動を組み合わせた健康支援
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主な受賞
令和6年度(2024年度)公益社団法人北海道理学療法士会「社会分野奨励賞」
VOL. 7
歩数の先にある健康 ―「何歩歩いたか」から「どこへ行きたいか」へ
はじめに
「今日は何歩だっただろう」と、スマートフォンを開く方も増えました。歩数は健康づくりの分かりやすい目安ですが、数字だけを追うと、歩けなかった日に落ち込んだり、誰かと比べたりしてしまうこともあります。理学療法士として大切にしたいのは、「何歩歩いたか」だけでなく、「歩いてどこへ行きたいか」という視点です。歩数の先にある、自分らしい暮らしを一緒に考えてみましょう。
「1日何歩歩けばいいですか?」
「1日何歩歩けばいいですか?」は、理学療法士としてよく受ける質問です。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、歩行またはそれと同等以上の身体活動について、成人は1日60分以上(約8,000歩以上)、高齢者は1日40分以上(約6,000歩以上)が目安として示されています。
ただし、この数字は誰にでも同じように当てはまる合格ラインではありません。年齢、体力、痛み、持病、仕事や家事の状況によって、安全で続けやすい活動量は異なります。ガイドにも、個人差を踏まえて量や強度を調整し、可能なことから取り組む考え方が示されています。
まずは数日から1週間、普段の歩数を眺めてみましょう。「多い・少ない」と評価するのではなく、よく動いた日とそうでない日の違いを振り返るためです。そのうえで、近所への用事を一つ増やす、昼休みに少し歩くなど、「今より少し多く動く」ことから始めます。札幌市も「歩こう☆プラス10分」を掲げています。歩数は成績表ではなく、今の生活を知るためのものさしです。痛みや息苦しさ、めまいなどがあるときは無理をせず、必要に応じて医療機関へ相談してください。
歩数は目的ではなく、暮らしの結果
歩くことの価値は、筋力や体力を保つことだけではありません。近所の店へ買い物に行く、バス停まで歩く、公園で季節を感じる、友人とお茶をする、地域のイベントに参加する。こうした日常の行動には、身体を動かすことに加えて、役割や楽しみ、人とのつながりを保つ意味があります。通勤や家事、子どもとの外遊びも、立派な身体活動です。
一方で、「歩けること」と「実際に出かけられること」は、必ずしも同じではありません。体力があっても、転ぶことへの不安や、出かける目的の有無、交通手段、休める場所、歩道や天候などの環境によって、外出のしやすさは変わります。理学療法士は、病院で歩行練習をするだけでなく、その人が地域でどのように暮らし、どこへ参加したいのかまで考える専門職です。
だからこそ、歩数が少ない日をすぐに「できなかった日」と決める必要はありません。いつもより短い距離でも会いたい人に会えた、必要な買い物ができた、外の空気を吸って気分転換になった。その一歩が、その人の生活を広げているなら、十分に大切な健康づくりです。数字と一緒に、その日にできたことにも目を向けてみてください。
「どこへ行きたいか」から目標をつくる
目標を考えるときは、「毎日8,000歩」のような数字から始めなくてもかまいません。まずは、行きたい場所、会いたい人、続けたい生活を思い浮かべてみましょう。「スーパーまで自分で買い物に行きたい」「公園を散歩したい」「孫と動物園へ行きたい」「友人と食事に行きたい」「地域活動に参加したい」など、自分にとって意味のある目的は、身体を動かす理由になります。
大きな目標は、小さな行動に分けると始めやすくなります。たとえば、家の周りを5分歩く、買い物のときに店内を少し多く歩く、無理のない範囲で階段を使う、週に一度は徒歩で近所へ出かける、座り続ける時間を短くする、といった一歩です。最初から毎日できなくても、週に一度、あるいは体調のよい日に行うことから始められます。
振り返るときも、歩数だけでなく、「外に出られた」「気分転換になった」「人と話せた」「新しい場所に行けた」といった変化を数えてみましょう。できたことが見えると、次の一歩を選びやすくなります。体調がすぐれない日や路面状況が悪い日に休むことも、長く続けるための大切な選択です。
札幌の季節に合わせて、無理なく続ける
札幌では、季節によって外出のしやすさが大きく変わります。夏と冬で同じ歩数を目指す必要はありません。暑い日は時間帯を選び、水分補給や休憩を心がけましょう。冬は積雪や凍結した路面で転倒の危険が高まるため、歩数を増やすために無理をして外を歩くことは勧められません。
雪や寒さが厳しい日は、札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)や商業施設など、天候の影響を受けにくい場所を活用する方法があります。外出が難しければ、室内での体操、掃除や片づけ、こまめな立ち上がりも身体活動です。立って動くことが難しい方は、座ってできる体操など、今の身体に合う方法を選びましょう。歩数に表れにくい動きも、健康づくりの一部です。
アルカサルでは、日々の歩数や健康記録を振り返り、自分なりの目標を確認できます。また、地域のイベントを探したり、ウォークチャレンジで札幌の街を巡ったりすることもできます。数字を競うためだけではなく、「今週は外出できた」「新しい場所を知った」といった小さな変化を見つけ、次の一歩を考える道具として活用してみてください。季節や体調に合わせて方法を変えることが、無理なく続けるコツです。
おわりに
歩数は、健康づくりに役立つ分かりやすい指標です。ただし、健康は歩数だけで決まるものではありません。行きたい場所へ行き、会いたい人に会い、地域で自分らしい生活を続けられることも大切です。まずは「何歩歩くか」の前に、「どこへ行きたいか」を考えてみませんか。そして、今の自分にできる小さな行動から始めましょう。アルカサルを、歩数だけでなく暮らしの変化を振り返る道具として活用し、歩数の先にある、自分らしい暮らしを目指していきましょう。