有識者によるお役立ちコラム
PROFILE
札幌市社会福祉協議会
梶井祥子会長
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略歴
2003~2012 北海道武蔵女子短期大学准教授・教授
2012~2025 札幌大谷大学社会学部教授
専門:社会学(家族、ジェンダー、ソーシャル・キャピタル)
2024~ 札幌市社会福祉協議会会長
VOL. 3
歩いてみれば
高齢期の備え
私の周囲では「終活」が大流行りである。身辺整理、エンディングノート、墓じまいなど、みんな忙しそうだ。おっとりと構えて高齢期を迎えるのはなかなか難しい。
日本人の平均寿命が世界トップレベルであることはよく知られている。今や、人生100年時代だとか。データを調べると、日本人が90歳まで生きる割合は、男性が25.8%、女性は50.2%。さらに女性は、95歳まで生きる可能性が約4人に1人ということである(厚生労働省「令和6年度簡易生命表」より)。
若い頃は、根拠もなく自分は薄命だと思っていた。ある時期に、「もういつ亡くなっても薄命とは言えません」と指摘され、ライフプランの修正が必要だと気がついた。とりあえず、25%の確率で95歳になるかもしれない自分を想像してみる。
心身の状態はどうなっているのか。お金は大丈夫か。心もとない。社会的な健康=人間関係はどうだろう。95歳の私には、声を掛けてくれる仲間がいるだろうか。いてほしい。できれば、仲間の年齢は子どもから年上まで幅広いことが望ましいと思う。そのための備えは、今からでも間に合うだろうか。
年配の方々との交流会では、「若い人のことはサッパリわからないし、どのように接したらいいのかもわからない」という声をよく聞く。私は、「若い人も同じことを言っていますよ。歩み寄るのは、知恵も経験も豊富なほうじゃないですか」と答える。知恵も経験もある(かもしれない)先行世代の側のひとりとして、声を掛けまくって気軽な仲間をつくりたい。それも高齢期への備えだと思う。つながることは、掛け金なしの終身保険だと信じて・・・。
頼れる人はいますか
札幌市の高齢女性の4人に1人以上が単独世帯で暮らしている。いつか一人暮らしになるのは自然な流れだが、気がかりなのは友人の有無である。
内閣府が5年ごとに実施している『高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(注1)』によると、「親しい友人がいない」と答えた人は、日本人では31.3%、アメリカが14.2%、ドイツが13.5%、スウェーデンは9.9%だった。親しい友人と言われるとハードルが高い気もするが、それにしても他国とのポイントの差は大きい。
家族や友人がいなくても、頼れるご近所さんがいれば心強いかもしれない。というわけで、前出の意識調査の「同居の家族以外に頼れる人」の項目を確認してみた。「近所の人」を挙げたのは、日本15.0%、アメリカ33.6%、ドイツ40.2%、スウェーデン20.0%だ。意外にも、頼れるご近所さんがいる人の割合は他国よりもかなり低い。札幌市民の町内会の参加率が右肩下がりであることを思い出した。現在は7割を切っている。
人を頼るのは意外と難しい。でも、相手に頼ってもらわないと、こちらも気軽に頼ることができない。ちょっとしたことを気軽に頼り合える関係は有り難いと思う。頼ったり頼られたり、支えたり支えられたり、お互い様と思えるのが高齢社会のやさしさだと思う。
歩いて、やさしさに出会う
WHO(世界保健機関)は、肉体的、精神的健康と社会的な健康を同等に重要視している。いろいろな人とつながっていることは社会的な健康を増進するだろう。
福祉の職場で働いている若いスタッフから、「私はかぎ針のような人になりたい」と言われた。どういう意味かと聞いたら、「人と人との出会いをかぎ針のように織り合わせて、やさしいものをつくりたいんです」と説明してくれた。コーディネーターとは言わず、かぎ針という表現にぬくもりを感じる。彼女のような存在は、私たちの社会的な健康を支えてくれるだろう。
出会いというほどではないが、さり気ない触れ合いで思わず温かな気持ちになることもある。
今年の冬は大雪の日が多かった。雪の積もった歩道の一本道で、小学生の男の子が道を譲ってくれたので「どうもありがとう」と言って先に通ったら、「どういたしまして」と元気な声が返ってきた。久しく聞かない美しい言葉の響きに、思わず感動。雪の道も悪くないと思ってしまった。見知らぬもの同士が思いやりの応答をするまちは、やさしい。こういうまちに住めば、社会的な健康も自然と向上するような気がする。
「札幌健康アプリ‟アルカサル“」は、イベントやボランティアへ参加することで出会いポイントがたまるようになっている。95歳の母は車椅子の生活になっているが、一緒に歩いて歩数を数えたり、イベント参加ポイントを貯めたりできたら楽しかっただろう。子ども世代や孫世代と競えば、共通の話題が増えるかもしれない。
歩いてみれば、いつもと違う風景や思いがけないやさしさに出会うこともある。歩かさることは素敵だ。
注1:令和2年度に内閣府が4か国(日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデン)の60歳以上の男女を対象に行った調査結果より(5年ごとに実施)