有識者によるお役立ちコラム
PROFILE
明治大学
情報コミュニケーション学部
後藤 晶専任准教授
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略歴
2010.04〜2015.03 明治大学 情報コミュニケーション研究科 博士後期課程修了 博士(情報コミュニケーション学)
2008.04〜2010.03 明治大学 情報コミュニケーション研究科 修士課程修了 修士(情報コミュニケーション学)
2004.04〜2008.03 中央大学 総合政策学部 卒業 学士(総合政策) -
現在の専門分野
行動経済学、社会情報学(キーワード:行動経済学、実験社会科学、計算社会科学、実験室実験、ナッジ、クラウドソーシング、オンライン実験)
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研究テーマ
ゲーム実験による自発的貢献行動の研究·行動経済学の社会実装に関する研究
VOL. 2
“続かない”のは意志が弱いからじゃない ― 春から始める小さな習慣づくり
はじめに
「今年こそは運動を続けよう」
年明けに立てた目標。最初の1週間は頑張れた。でも2週間目には「今日は疲れているから」と休み、3週間目には「また明日から」と先延ばしにして、気づけばいつの間にか元の生活に戻っていた――こんな経験はありませんか。
「自分は意志が弱い」「やっぱり自分には無理だ」と、自分を責めてしまう方も多いかもしれません。
しかし、行動科学の研究は私たちに大切なことを教えてくれます。
健康習慣が続かないのは、あなたの意志が弱いからではありません。
続けられる「仕組み」がなかっただけなのです。
今回は、科学的に証明された「習慣化のテクニック」をご紹介します。春という新しい季節の始まりに、無理なく続けられる健康習慣を一緒に作っていきましょう。
なぜ”続けよう”と思っても続かないのか
私たちの脳は、実はとても省エネ設計です。
新しい行動を始めるには、毎回「やろう」と決断し、実行に移すための大きなエネルギーが必要になります。仕事で疲れた日、天気が悪い日、なんとなく気分が乗らない日。そんなときに「今日も運動しよう」と決断し続けるのは、想像以上に脳に負担をかけているのです。
心理学では、この「やろう」という意図から実際の行動までの間に生じるギャップを「意図-行動ギャップ」と呼びます。研究によると、運動を「したい」と思っている人のうち、実際に継続的に運動している人は半分以下だと報告されています。
つまり、「やりたい」と思うことと「実際にやる」ことの間には、大きな壁があります。
そして、その壁を意志の力だけで乗り越え続けることは、誰にとっても難しいことです。難しくて当たり前のことなのです。
だからこそ、必要なのは「意志を強くすること」ではなく、「意志に頼らなくても行動できる仕組みを作ること」なのです。
“if-thenプラン”という魔法の仕組み
それでは、実際に「意志に頼らなくても行動できる仕組み」はどうすれば作ることができるのでしょうか?社会心理学者のピーター・ゴルヴィッツァー教授は、画期的な行動習慣化の手法を提唱しました。それが「if-thenプランニング」と呼ばれる方法です。日本語にするならば、「○○したら作戦」というところでしょうか。
仕組みはとてもシンプルです。
「もし(if)○○になったら、(then)△△する」
という形で、事前に行動のルールを決めておくのです。
たとえば「もし月曜日の朝7時になったら、ウォーキングシューズを履く」「もし昼食後にコーヒーを飲んだら、5分間ストレッチをする」「もし夕食後に食器を片付けたら、歯を磨きながらスクワットを10回する」
とても単純なことですし、もしかしたら、既に実行されている方もいるかもしれません。
ただ、具体的な状況と、そのときに行う具体的な行動を結びつけておくことで、脳は「自動操縦モード」になります。「今日はやろうかな、どうしようかな」と迷う必要がなくなるのです。
驚くべき効果
ゴルヴィッツァー教授の研究では、「○○したら作戦」を使ったグループは、使わなかったグループに比べて目標達成率が40%も高かったことが報告されています。
また、スポーツジムでの実験では、91%の人が運動習慣化に成功したという結果も出ています。これは、通常の「運動しよう」という目標設定だけの場合に比べて、圧倒的に高い成功率です。
なぜこれほど効果があるのでしょうか。
それは、「○○したら作戦」が「決断疲れ」を防いでくれるからです。人間は1つの意思決定を下すために知らず知らずの間に多くのコストを費やしています。しかし、「○○したら作戦」を用いることで毎回「やるかやらないか」を判断する必要がなくなり、決められた状況になったら自動的に体が動くようになります。これによって、意志の力をほとんど使わずに行動を継続できるのです。
習慣化を成功させる3つのコツ
「○○したら作戦」を実際に使ってみるとき、成功率を高めるためのコツがあります。
1. ハードルを極限まで下げる
「もし朝7時になったら、30分ジョギングする」
これは、実は少しハードルが高すぎるかもしれません。
いろんな研究で行動を継続するために推奨されている方法は、「絶対に実行できるレベルまで行動を小さくする」ことです。
たとえば「ジョギングする」→「ランニングシューズを履く」
「30分歩く」→「玄関を出る」
「筋トレする」→「トレーニングウェアに着替える」
「それだけ?」と思うかもしれません。
しかし、ここがポイントです。
靴を履けば、歩きたくなる。玄関を出れば、少し歩いてみようかなと思う。
着替えれば、せっかくだから少し体を動かそうかなと思う。
最初の小さな一歩が、自然と次の行動につながっていくのです。そして、その小さな一歩を「毎日確実に踏み出せた」という達成感が、継続の力になります。
2. 「いつ」「どこで」を具体的に決める
「時間があったら運動する」では、なかなか実行できません。
「○○」は、毎日必ず遭遇する、具体的で明確な状況にすることが大切です。
良い例:「朝食後にコーヒーを飲んだら」 - 「仕事が終わって帰宅したら」 - 「お風呂に入る前に」
悪い例:「時間ができたら」(いつ?) - 「疲れていなかったら」(曖昧) - 「天気が良かったら」(自分でコントロールできない)
毎日のルーティンの中に組み込むことで、忘れることなく、自然と行動できるようになります。
3. 記録して「見える化」する
行動を記録することも、習慣化の強力な後押しになります。
カレンダーにシールを貼る、アプリにチェックを入れる、手帳に丸をつける。どんな方法でも構いません。「昨日もできた」「今週は3日できた」という記録が、次の行動を促してくれます。
ある研究では、行動を記録している人は、記録していない人に比べて継続率が30〜40%高いことが報告されています。
「見える化」することで、小さな達成の積み重ねを実感でき、それが次のモチベーションにつながるのです。
札幌の春は、習慣づくりに最適な季節
札幌の冬は長く、寒さや雪の影響で外出を控えがちになることと思います。
運動不足になってしまうのも、ある意味自然なことでしょう。
しかし、4月になると雪が解け、外を歩きやすくなります。日も長くなり、気温も上がってくる、体も自然と動きたくなる季節です。
実は、この「季節の変わり目」は、新しい習慣を始めるのに最適なタイミングだと言われています。
環境が変わるとき、私たちの脳は新しいパターンを受け入れやすくなります。「冬の間はできなかったけれど、春になったから始めよう」というのは、脳にとっても自然な流れなのです。
さらに、4月は新年度の始まり。「新しいことを始める」という雰囲気が社会全体に満ちています。この追い風を利用しない手はありません。
昨日できなかったことを悔やむ必要はありません。今日から、小さな一歩を始めればいいのです。
一人では難しいから、アルカサルと一緒に歩みましょう
習慣化のテクニックを知っても、「本当に自分にできるだろうか」と不安に思う方もいるかもしれません。
その不安は当然です。なぜなら、一人で習慣を続けることは、誰にとっても難しいからです。
だからこそ、札幌市は健康アプリ「アルカサル」を導入しました。アルカサルは、単なる記録アプリではありません。あなたの健康づくりを支え、励まし、一緒に歩んでいく「伴走者」です。
あなたの努力を「見える化」して、後押しする
アルカサルでは、歩数だけでなく、様々な健康行動を記録できます。
「今日は5分歩いた」「ストレッチをした」「友人と会った」
どんな小さなことでも構いません。記録することで、あなたの努力が「見える形」になります。
体調を振り返れば、「今週は3日できた」「先週より増えている」「先月より確実に続いている」といった変化が一目で分かります。
一人で頑張っていると見えにくい小さな進歩も、アルカサルが記録、可視化してくれる。この「できている実感」が、あなたの自信になり、「また明日も」という気持ちを支えてくれます。
小さな達成を一緒に喜ぶ
アルカサルでは、歩数や健康行動に応じてポイントが貯まります。
このポイントは、単なる数字ではありません。「今日もよく頑張りましたね」というアルカサルからの拍手であり、「明日も一緒に頑張りましょう」という応援メッセージです。
一人で黙々と続けるのは孤独です。でも、アルカサルがあなたの小さな努力を認め、一緒に喜んでくれる。
行動科学では、こうした小さな報酬とフィードバックが、習慣化に非常に効果的であることが分かっています。
今日から始める”小さな習慣”のヒント
「じゃあ、具体的に何から始めればいいの?」という方のために、いくつかヒントをご紹介します。
歩くことから始めるなら
「朝、顔を洗ったら、玄関でウォーキングシューズを履く」
「ゴミを出すついでに、郵便ポストまで歩く」
「バスを一つ手前で降りて、一駅分歩く」
体を動かすなら
「歯を磨きながら、かかとを上げ下げする」
「テレビのCM中に、スクワットを5回する」
「寝る前に布団の上で、深呼吸を3回する」
食生活を見直すなら
「夕食の準備を始める前に、野菜を一つ切る」
「お菓子を食べる前に、水を一杯飲む」
「外食するときは、メニューを見る前に『野菜を頼もう』と心に決める」
睡眠を改善するなら
「夕食後にスマホを触ったら、30分後にアラームをセットする」
「お風呂から出たら、すぐに寝室の照明を暗くする」
「ベッドに入ったら、深呼吸を5回する」
大切なのは、「これなら絶対にできる」と思えるレベルまで小さくすることです。
小さすぎて意味がないように感じるかもしれません。しかし、まずは「毎日続けられた」という成功体験を積むことが何より重要なのです。
完璧を目指さなくていい
最後に、とても大切なことをお伝えします。
習慣化は、完璧を目指す必要はありません。人間は決して完璧な存在ではありませんし、「毎日やらなければ」と思い詰める必要はないのです。
週に3回できればそれで十分。できない日があっても、また明日やればいい。1週間できなくても、今週からまた始めればいい。
行動科学の研究では、習慣化に必要なのは「完璧さ」ではなく「継続性」だと言われています。たとえ途中で途切れても、また始めればそれは「継続」です。
「昨日できなかった」ことを悔やむのではなく、「今日できた」ことを喜ぶ。
その積み重ねがあなたの健康を、あなたの明日を作っていきます。
おわりに
「今年こそ運動を続けよう」と思ったとき、多くの人は「意志を強く持とう」と考えます。
しかし、本当に必要なのは「強い意志」ではありません。
必要なのは、一緒に歩んでくれる仲間です。
「○○したら作戦」という科学的な方法を知っていても、記録を続けるのを忘れてしまう。小さな一歩を踏み出しても、それを認めてくれる人がいない。うまくいかない日があると、一人で落ち込んでしまう。
一人で習慣を続けることは、誰にとっても難しいのです。だからこそ、アルカサルがあります。
アルカサルは、あなたの努力を記録し、見える化し、小さな達成を一緒に喜んでくれる。そんな「伴走者」です。
健康づくりを一人で頑張る必要はありません。
アルカサルと一緒に、無理なく続けられる健康習慣を作っていきませんか。
靴を履く、玄関を出る、深呼吸をする。どんなに小さくても、それはあなたの大切な一歩です。
そして、その一歩を、アルカサルが支えます。今日から、一緒に始めましょう。